top of page
タイ労働法
タイ人を雇用する際に知っておくべきタイの労働法について

労働法については、小規模な会社ほど軽視しがちですが、タイでは企業倒産の原因として、労使間のトラブルが多発しています。特に日系企業は、タイ人労働者を従順で勤勉な労働者と勘違いして、安くて何でも言うことを聞く労働者だと前提をおいて経営することがあり、それが痛手となることがあります。



タイでは、労働者を雇用する場合には、書面による雇用契約書を作成し、労働条件を明確にすることが必要です。10人以上常時雇用する場合には、タイ語の就業規則、従業員台帳、賃金台帳を作成し、区役所労働衛生課に提出して内容検査を受けることが法律で定められていますが、タイでは労使間のトラブルが非常に多い傾向にあります。



この背景には、雇用契約書や就業規則がない状態で、労働者側が自身に有利なように無防備な会社を訴えることがあるためです(タイでは、労働者側は無料で訴えることができるため、気軽に提訴することができます)。



また、労働裁判所の調停員は、タイ人労働者に非常に同情的であることが多いです。したがって、日本人雇用主であっても、どのような主張や反論をしても、労働者の主張を受け入れる傾向にあることが通常であります。

 

laborcourt.png

就業規則必須記載項目

  1. 労働日

  2. 通常の勤務時間と休憩時間

  3. 休日

  4. 休日取得の方法

  5. 超過勤務と休日勤務の取り扱い

  6. 基本給、超過勤務手当、休日手当、休日超過勤務手当の支払い方法

  7. 規律と罰則、減給などの措置

  8. 苦情申し出先と方法

  9. 雇用契約の解消と退職金に関する項目

これらの項目については、タイの法律に反しない範囲で、明確に記載する必要があります。また、福利厚生規定として、外国人の一時帰国費、ビザ・WP取得費、社内旅行などを記録すれば、税務上、損金算入ができることにも留意しましょう。

 参考-労働省作成の雛形

タイ就業規則見本日本語版タイ語版

自社で独自に作成される場合は当社へご依頼ください。タイ労働作成の雇用契約書の雛形はこちら

労働時間

労働時間は1日8時間、1週間48時間を超えないことが定められています。ただし、下限は設けられていません。定めた時間以外は残業となるため、ご注意ください。

休憩時間

連続して5時間以上働く場合は、1時間以上の休憩が必要です。なお、就業中の休憩時間は労働時間に加算されないことが法律で規定されています(第27条の3)

休日

週に1日以上は必ず休みを設けるようにしましょう。なお、日給制や出来高制の場合には、週休日は無給とすることができます。また、年に13日以上の祝日や祭日に加えて、特別休暇の制度を導入することも検討しましょう。

時間外労働と割増賃金

時間外労働総時間は36時間を超えてはなりません。時間外労働には、通常の労働時間に比べて1.5倍の割増賃金を支払うことが求められています。深夜労働や休日出勤については、2倍の割増賃金を支払うことが原則ですが、管理職については、時間外や休日の割増賃金が適用されないことがあります。なお、時間外勤務が2時間以上ある場合は、時間外勤務前に20分以上の休憩を与えることが推奨されています。また、法律上は、残業前には労働者に通知し、文書による合意を得る必要があります。

以上が、労働規則に必ず記載すべき項目となります。なお、法律に反する取り決めはできませんので、ご注意ください。また、福利厚生に関する規定についても、外国人の一時帰国費やビザ・WP取得費、社内旅行等を記録しておくことで、税務上の損金算入ができる場合があります。

 通常日の労働休日労働

通常時間の賃金1
(基本給÷30日÷8時間)2倍

時間外の割増賃金1.5倍3倍

*時間外勤務が2時間以上あるときは時間外勤務前に20分の休憩を与えること
*法律上では残業前には労働者に通知し文書による合意を得る必要がある
*深夜増しの規定は無い。
*勤務時間前に労働させる場合も上記割増と見做す。
*管理職の定義は「雇用・報酬の付与または解雇について使用者を代理して行う権限のある者」。

役職のみのいわゆる「名ばかり管理職」の者は時間外勤務手当てをもらう権利がある。
*18歳未満の労働者は、特別な場合を除いて22時から6時までの就労を禁止

給与からの控除の注意

 

"NO WORK NO PAY"の常識が通用しない場合があるので非常に注意すべき。勤怠が悪い(ขาดลามาสายบ่อย)場合でも、 賃金、時間外勤務手当て、休日勤務手当てから控除すると問題になります。あらかじめ雇用契約や就労規則にて、○○手当てからの控除すると定めたり、文書により説明し署名させておく必要があります。

労働者保護法第76条 使用者は次に掲げる場合を除いて、賃金、時間外勤務手当、休日勤務手当または休日時間外勤務手当から控除してはならない。

 

(1)所得税、(2)労働組合の納付金、(3)協同組合の納付金
(4)第10条に定める保証金、または労働者の故意または重大な過失により生じた使用者に対する損害賠償金。ただし、労働者の承諾を得なければならない。
(5)積立基金
(1)-(5)に関しては、それぞれ第70条(給与支払い時期)により定められた支払い時期に労働者が受取る権利のある金額の10分の1を超えてはならず、また、合計額が同じく5分の1を超えてはならない。ただ、労働者の承諾を得た場合を除く。

労働者保護法第77条 使用者が労働者から承諾を得なければならない場合、または、第54条および第55条に定める金銭の支払(タイの通貨にて、就労場所にて支払う)、または第76条に基づく控除を行うため労働者から承諾を得る場合、使用者は文書により明確に労働者の承諾、同意を得て、労働者に署名をさせなければならない。

日割り計算の場合

 

(基本給+手当)÷30日×在籍日数(休日含む)が一般的。休日を除いた営業日数で割らないこと。

労働者保護法第56条 使用者は次の休日について、労働日の賃金と同額の賃金を労働者に支払わなければならない。
(1)週休日。ただし、賃金が日、時間で支給され、または出来高で計算、支給される労働者を除く。
(2)祝祭日
(3)年次休暇

年次有給休暇

 

1年以上勤務した場合に6日以上付与(勤務労働が1年に満たない労働者に対して、

勤務日数に応じた有給日数を与えるかどうかは就業規則次第)
1年間で消化されない休暇は労使協議の上、翌年に持ち越すか休日労働扱いとして賃金の支払いを行う。

また退職時には有給休暇分の給料を支払う。

用事休暇

 

用事休暇(ลาเพื่อกิจธุระอันจำเป็น)。用事とは何か?があいまいですが、従業員が結婚式や葬式やIDカード

作ったり免許更新したりといった理由で休暇申請をする場合、雇用主は年に3日間有給休暇を与える必要がある

(労働者側から見ると、休暇を取る権利がある。労働者保護法34条、57/1条)

特別休暇

 

傷病休暇:労働者は、仮病でない限り、傷病の程度に応じて年30日以内の傷病休暇を取る権利があり、

使用者は賃金を支払わなければいけない(本来重い病気での入院を想定したものですが、タイ人は

このマイサバイ休暇制度を悪用し、際限なく休みを取りがち。上記の有給と合わせると年に36日、

月に3回ですから毎週のように休んでいい、と考える労働者もいます。結果として、タイでは土曜日を

休みに定めず、週休1日制とする企業が多いです)。但し3営業日以上の傷病休暇については医師の証明書を

求めることができる


避妊手術休暇:医師が定めた期間は有給となる。


出産休暇:休日を含めた98日間で45日まで有給となる(2019年4月5日改正。

産休前検診についても産休利用が可能)


軍務休暇:年間60日間の有給期間がある

タイでは労働者が休みがち。しかしこれは順法であり、腹を立てられない。

このため、日系企業では皆勤手当を設定するとこと、ボーナスの査定で勤怠を考慮する旨を伝えることが

多いです。減点方式で給料から天引きするのは危うい上に、士気(モチベーション)も下がる下策。

休暇届サンプル

育児休暇

 

雇用主と応相談。労働者が男性の場合は通常無い。

 

年少者

 

15歳未満は雇用禁止。18歳未満の労働者を雇うとき、IDカードとタビアンバーンをもらうこと。

また雇用開始より15日内に労働局に届出をすること(届出用紙)。22時以降に労働させないこと。

試用期間

 

119日以内の規定。この期間の解雇については解雇補償金支払いの必要はないが、判例では

(最高裁判判例2364/2545)期間の定めの無い雇用と同一視し、この期間内でも解雇あるいは退職する場合には

双方とも1ヶ月前に通知する義務があるとしている。

よって、試用期間の最終日に解雇を言い渡す場合は、事前通告義務違反となってしまうので要注意。

3ヶ月間すら続かないタイ人労働者や現地採用組も多いので、コストカットの観点から省略しがちだが、

試用期間内であっても社会保険などへの加入義務あり、待遇は正社員と差をつけてはいけない。

外国人の場合はビジネスビザ及び労働許可証の取得が必要となる。

タイ人求職者の持参するレジュメ(日本で言う履歴書)はあまり参考にならない。

学歴は、最終学歴の成績証明書、経歴は、以前の会社の退職証明書を持っていない場合は眉唾である。

履歴書に書いてある自己申告のスキルについては、試用期間中に必ず試し、怪しい場合はそれを理由に

早めに解雇すること。

保証金預かりの禁止

 

会計など使用者の金銭、資産を管理する労働者以外からは保証金預かること、

保証人を要求することができない。/ 身元保証書サンプル

一時休業不可抗力に基づくものでない、事業主の都合として臨時的に事業の一部または全部を停止・

休業する際であっても、労働者に休業開始時の給料の75%を支給すること。休業開始時の給料とは

、基本給のほか、役員手当、食事手当等の支給額すべてを含めて計算しなければいけない。

一時休業を行うための要件


・不可抗力にもとづくものでないこと(明確な定義が無いが、天変地異などの不可抗力の場合、

COVID-19など、当局による事業停止指示の場合が該当)
・通常の業務運営が困難になるほどの事業活動に支障を生じる重大な理由によること
・事業の一部もしくは全部の休止であること
・臨時的な休業であること
・上記を労働者および労働局への3営業日前までに事前通知すること(これが重要)

雇用主が変更になる場合

 

2019年以降、雇用主が変更になる場合、または雇用主が法人の場合は変更、譲渡、合併の登記がある場合、

新雇用主と雇用関係になる労働者から同意を得なければならないとの文言が追加された(第13条)。

仮に同意を得られない場合は雇用解除となり、解雇補償金(第118条第1項)の支払いの対象となる。

事業譲渡で会社売却するケースや、帰任などで役員変更となるケースで従業員とトラブルとなると、

思わぬ労働争議を抱え込むことになる。

会社側の理由での解雇(1)事業所移転の場合。


30日以上前の事前通告義務あり。新事業所で働くことを望まない労働者に対しては特別解雇手当を支払うこと。
(2)業務縮小、機械導入、機械更新等による労働者の削減を理由とした整理解雇の場合。
1、60日以上前に労働者へ解雇理由と解雇日を告知し、労働省の労働監督官への届出が必要となる。
  事前通告が無い場合は、ペナルティ(賃金60日分)
  注意点としては、解雇の人選に合理性・妥当性が無い場合は不当解雇として訴えられた場合に会社側が

  敗訴すること。
2、告知したばあいであっても、118条の解雇補償が発生する。
  (118条に、解雇とは、雇用者が事業を継続することができないため労働者が労働せず、かつ、

  賃金を受取らない場合を含む。とあり、119条に、解雇補償金を払う必要が無い場合に、

  整理解雇が無く、解雇補償金を支払わないケースにあたらない)
3、6年以上の勤続者には勤続1年当たり15日分以上の解雇金を通常の解雇手当てに上乗せして支払うこと。

解雇可能な事由


(労働者に非があるケース)解雇補償金を支払わずに解雇できる場合(保護法119条、労働者に非があるケース)
(1)職務に対する不正、使用者に対し故意に刑事犯罪、(2)使用者に故意に損害を与えた場合(要・警告書発行*。

けっこう主観的に警告書を数度(2度以上)発行し、首を切る使用者も多いです)、(3)過失により重大な損害を与えた場合(要・警告書発行)、(4)就業規則、使用者の合法的命令に違反し、警告書を受けた場合、

重大な場合(警告書不要)(5)正当な理由なく、間に休日があるかないかにかかわらず3日間連続して職務を

放棄した場合、(6)最終判決により禁固刑を受けた場合*警告書(หนังสือตักเตือน)の定型はないが、

記載内容は次のとおり。(警告書サンプル

 

・発行場所
・発行日
・労働者名、労働行為の事実(年月日・時間・場所・状況、違反内容)
・署名(使用者)

 

解雇補償金を支払わない懲戒解雇は、(i)従業員が就業規則に対する重大違反(軽微でないかどうかは主観要素)をしたという事実、(ii)雇用者による口頭および文書(事実・理由を書いた警告書)による注意事実、(iii)更正の機会を与えた経緯証拠(2回以上警告書を発した)の3ツがなければ、労働裁判では会社側の非となります。

[余談]その他解雇する手としては、他のタイ人の給料やボーナスに明白に差をつけるとすぐに辞めます。

反対に、辞めさせたくないタイ人がいるなら冷遇しないこと。
[隠れて仕事を引き受けていた場合の判例]従業員が会社と同事業をする場合は、顧客が取られたかどうかにかかわらず、労働者保護法119条(2)の「使用者に対して故意に損害を与えた場合」に該当する(ฎีกาที่ 239/2545)。
[勤務中のインターネットでのチャットアプリ使用の判例]2015年2月6日の最高裁(判例番号คำพิพากษาศาลฎีกาที่ 2564/2557)で、勤務中のインターネットでのチャットアプリ使用によって、会社に損害を与えたとして、

事前通告および解雇補償金なしでの解雇が認められた。

期間の定めのある雇用契約の場合の解雇

 

雇用主と労働者が雇用開始時に、書面で2年以内に完了する、雇用主の通常の事業もしくは取引とは異なる特別プロジェクト、終期もしくは労働の完了を定めた一時的形態のプロジェクト、または季節的要因のある労働のいずれかに該当する業務については、契約期間最終日をもって契約が満了し、解雇保証金は必要がない。
しかし契約期間中に解雇する場合は、少なくとも1給与期間以上前、または契約に定められた期間前に通知する

義務がある。通知義務違反の場合は当該期間分の給与を支払う規定がある。

解雇不可能な事由(労働者に非があるとしてはいけないケース)

 

(1)妊娠を理由とした解雇、(2)労組組合員であることを理由にした解雇、(3)労働運動を理由とした解雇、

(4)労働者委員会(日本の労使協議会、経営協議会に相当)の委員は労働裁判所の許可なしには懲戒、

解雇できない

解雇補償金(解雇手当)

 

事業者は労働者に対し1給与期間以上前に通知する必要がある(告知後2回給料日をはさむタイミングで行うと)

即時解雇の場合は、事業者は解雇手当の他に雇用報酬を支払う義務がある。
労働者に非がないケースすべてとなる。保護法118条②本条でいう解雇とは、

雇用契約の終了または他理由を問わず、使用者が労働者を以後働かせず、賃金を支払わない行為のことをいい、
使用者が事業を継続することができないため労働者が労働せず、かつ、賃金を受取らない場合を含む。

勤務期間手当金額

120日未満 解雇補償金は必要ない

120日以上1年未満 退職時の賃金の30日分

1年以上3年未満 退職時の賃金の90日分

3年以上6年未満 退職時の賃金の180日分

6年以上10年未満 退職時の賃金の240日分

10年以上 退職時の賃金の300日分

20年以上 退職時の賃金の400日分

なお解雇にあたっては企業側に当該労働者の未消化の有給の買い取り義務があるが、

労働債権の消滅時効は2年であることから、2年を経過する有給休暇にあたっては支払いを検討しなくてよい。

解雇手当ではないが、定年退職の場合にも解雇手当の支払が必要となる。

●下記の場合は解雇手当の支給対象外である。マネージメントの面からいうと、下記に該当するように

解雇すべきである。
(1)120日未満の勤務(試用期間項目ご参照)(2)労働者による辞職・期間労働者(2年以内の有期雇用)

(3)故意に使用者に損害または刑事上の罪を犯した労働者(4)過失により使用者に深刻な損害を与えた労働者(5)使用者が就業規則または使用者の合法定期な規定に反する旨の警告書を事前に出した労働者

(6)適切な理由なく3労働日数連続して職場放棄した労働者(7)最終判決で懲役を受けた労働者

●解雇補償金は、給料所得とは区別され、30万バーツまで非課税となる。

 

退職金

 

法律上の規定なしだが、福利厚生として退職金給付制度(プロビデントファンド)を採用している企業がある。

積立金は給与支払いの15%以下であれば費用として処理でき、法人税の適用外となる。労働者は自己積立分、

会社の積立分、及び積立金の運営による収益分を非課税で受け取ることができる。

タイ労働法の重要事項とコメント
bottom of page